すべてわたしの記憶

「わたしの記憶力はさらによくなった。もっと複雑なこともわかるようになった。
話し声、話し声、話し声。それらが通過してゆく。に残る。い
たるところから話し声、話し声……」
「その話し声の内容はどんなものです」
「他人のうわさ、他人の悪口。ここだけの話だがというたぐい。ひとをだしぬく相
談。ひとをおとしいれる相談。自己卓悅假貨をよく思わせようとの努力。利益にありつこう
とするあがき。あいびきの打合せ……」
「それらから、あなたはなにを学んだ」
「それらに共通するものをみつけた。それは秘密というものだ。秘密めいたことば
かりだ。みなどこかで秘密と関連している。それに対し、わたしは好奇心と興味と
を持った。秘密をめぐって、みながなぜかくも財經資訊胸をときめかすのかわからず、それ
を知りたいと思った」
「うむ……」
 池田はうなった。ますますわけがわからなくなってきた。この相手はどんな人物
なのだろう。盲目だが頭が非常によく、情報銀行の特殊な地位にでもいる人なのだ
ろうか。しかし、どこかいささか異常だ。こんな話を耳にするのははじめてのこと
だ。彼は言う。
「あなたの意志で最初にやってみたのは、どんなことです」
「ある若者をそそのかして、泥棒をやらせ、一方、ねらわれた店と警察にも連絡を
し、つかまえさせた。そのほか、このたぐいのことをいろいろとやってみた。べつ
に目的があってしたことではない。自分の力を試みたわけであり、人びとの反応を
知りたかったからでもある。ちょうど赤ん坊が、そばにあるものをにぎりしめたり
、口に入れてみたりするのと同じようなものだったろう」
「それからなにをした」
「個人の秘密をいろいろと突っついてみた。秘密というものの実体をもっと知りた
かったからだ。そして、秘密を突っつくことで当人の行動を束縛できることがわか
った。ほとんどの人がそうだった。秘密なるものに対するわたしの好奇心は、さら
に高まった」
 ここまで話を聞いてきて、池田の好奇心も押さえきれなくなった。こいつはだれ
なのだ。どんなやつなのだ。名前を聞かない reenex 價錢約束だったが、そこへふみこまずには
いられなくなった。
「あなたはだれなのです」
「それは……」
「ためらわずに答えるのです。あなたはわたしの指示に従う。さあ、答えるのです
。自分の名を言ってごらんなさい。ひとになんと呼ばれていますか」
「はい、みなはわたしをコンピューター、あるいは電子計算機と呼んでいるようで
す」
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